王子の結婚

ユナが再び席につくと、彼もユナの左隣の席についた

それとほぼ同時に
バンッ
と、少し慌てた動作で扉が開いた
そして颯爽と青年が入ってくる

「ユナと初めての顔合わせの席で遅れてすまない、政務が立て込んでいて…」

そう言いながらユナの右隣まで来ると立ち止まった

背はイル王子よりも高く、無駄のない逞しい体躯
身なりはいいものの、先の2人と違ってどこか華のない青年だった


「聞いていた通り、本当に美しい人だね
こんな素敵な女性が僕の妃になってくれるなんて、僕はとても幸せ者だね」

えっ!?

一瞬、目の前の青年の言葉が分からなかった

この方がソウ王子なの!?

吃驚しているユナを覗き込むように見ながらソウは優しい笑顔で微笑む

「はじめまして、ユナ
もう兄上たちから紹介は受けたかな?
改めて僕から紹介するね」

そう言って、ユナがソウ王子だと思っていた彼の方を向く

「長兄のカイ王子
今回は遠慮いただいているが、ご正妃とご側室が4人いらっしゃる
またの機会に紹介するよ」

今度はイル王子の方を向いて

「次兄のイル王子
彼にもご正妃とご側室がいらっしゃる
何人だったかな、ずいぶんと大勢いらっしゃるから詳しく覚えていないんだ」

そう言って笑った

「おい、なんだ!その言い方は」

イル王子も笑いながら返す
そして先ほどのニヤッとした笑いを浮かべた

「ソウ、彼女は兄上をお前だと思ってたみたいだぞ?」

ユナはかぁ、と頬が熱くなった

イル王子に次いでカイ王子の事まで勘違いなんて…
ソウ王子に向ける顔がない

「僕の妃をいじめないで下さい、兄上
彼女は僕らを知らなかったのだから仕方ない
しかもどうやら僕の噂は一人歩きしているようだから、ユナが勘違いするのも無理はないでしょう」

恥ずかしくて申し訳なくていたたまれない気分でいたユナの肩に手をおいて、「大丈夫だからね」とフォローする

キーナに聞いていた通り、とても優しい方みたいだ

でも誰もが惹きつけられる美貌、というのはまさしくカイ王子の事であって
イル王子のような妖艶さも持ち合わせてはいない


「街での僕は何故か類を見ない美男子、と言われているようだね
まさしくカイ兄上だ」

はは、と笑いながら、

「ごめんね、ユナ
この通り僕は普通の男だよ
カイ兄上のような美しい容姿も、イル兄上のような色気もない」

少し伏し目がちに、寂しそうに呟いた

後ろでイル王子が「色気とはなんだ」と笑い、カイ王子はフフと微笑んでいる



長年ずっとカイ王子のような姿を思い描き、優しく聡明な“ソウ王子”の人物像を作り上げてきた
いつの間にかその“ソウ王子”に想いを募らせてきてきた
そんな彼だから、何の不安もなく王宮に入るつもりだった

人を見た目で判断するつもりはないのだけれども、思い描いてきたその姿はまさにカイ王子そのもので

ソウ王子に抱いてきた気持ちは頭の中で勝手にカイ王子の見た目そのままな偶像を作ってきていた

ソウ王子から溢れ出るオーラは優しさに満ちている
彼もまた、今まで望んできたソウ王子そのものなのだ

ただソウ王子とカイ王子、2人を目の前にして今はまだ心がついていかなかった





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