王子の結婚
「どうしたの?元気がないね」
今日はお昼の時間には過ぎてしまったものの、まだ日の落ちる前には手を空け、ユナの元へとやってきた
この後はもう、政務も何もなくいつもより長く一瞬にいられると嬉しそうなソウとは裏腹に、ユナはどこか沈んでいる
「そんなことないですよ」
優しく笑いかけはするが、どこか覇気がなかった
昨晩、はまり込んだ迷路の出口は見付けた
「誰かに何か言われた?何かされた?」
ソウは自分の知らぬところでユナに何か危害が及んでいるのかと懸念する
「そんなことは決してありません!
皆、よくしてくれています」
その言葉に偽りはない
ソウとユナの仲睦まじい姿を見て、最低は微笑ましく見守ってくれているのが分かる
だからこそ余計に心が苦しい
これこそが偽りなのに…
愛情など必要のない政略結婚
8つも歳下の子供な私に、優しい王子が愛のある結婚だと夢を見させてくれている
一晩考えて行き着いた答えだった
はじめて会った娘に、他の妃はいらないと告げる
それこそが何よりの証拠だ
まだ愛情も持たない相手に一国の王の未来を誓うなど有り得ない
王家に嫁ぐと決まっている者に求婚する者はいない
だがソウは違う
ユナの他にも娶れるのだ
むしろそれが国の未来を担う
ユナがまだ見ぬ相手に恋心を抱いてきたのは、彼が生涯の相手になるからだ
ソウにその理屈は通用しない
ユナがソウの噂から偶像を作り上げ、慕ってきたように、ソウもまた同じようにユナを想ってきたというあの話から、既にもう偽りがはじまっていたのだ
そんな事に気付いてしまった
でも、もう遅い
そんな彼の優しさが気付きたくない事も気付かせてしまった
私の作り上げだ偶像は彼そのものだったのだから
見た目の違いだけ…
あとは何も変わらない
頭の中で考えるだけではない彼を知ってしまった
私に甘く囁く声、優しく触れる指、力強い腕、熱い唇…
恋い慕う、偶像ではない生身の彼を知ってしまった
私の方がもうどうしようもないほど、彼を愛していると────
だから決めたの、覚悟したの
私は彼の優しい偽りを知らないふりをする
そうしなければ彼の側にいられなくなってしまう気がして…