王子の結婚

ソウの両腕の拘束を解かれ、身体も放された
膝の上から退き、隣に座らさせられる

放された身体が少し寂しく感じた
その気持ちが溢れている瞳でソウを見つめる

「そんな顔で見ないで
君を傷付けてしまいそうで怖いんだ」

請うようなユナの表情を見て、困ったように呟く
ユナは自分がどんな顔をしているのかは分からなかったが、ソウに拒絶されたようで寂しかった

「貴方が私を傷付けることなんてありません」

うそだ…
どうしようもないほど、この偽りの愛に傷付いている

「そんなこと言われたら本当に何もできないね」

ソウはいつもの優しい笑顔を向けた

でも、ユナはいつものように笑えなかった
身体を放されて寂しく感じた小さな気持ちが、色んな感情を取り込んで大きくなっていく

私を心から愛して欲しい

一緒にいれば自分を愛してくれるようになるのだろうか
愛を尽くせば、彼からも真の愛が生まれるのだろうか

口には出せない感情がユナの憂いを作っていた


ソウはユナが何か憂いを抱えていることには気付いていたが、それが何かは分からない

ユナがそれを打ち明けるつもりがないのも分かっていた




「もしもこの結婚を拒否することができたとしたら
それでもユナは僕と結婚したいと思う?」

突然問われたそれはユナの頭の中を真っ白にした

何と返せばいいのだろう
ソウが何を考えているのか分からない
出来ればユナと結婚したくなかった、ということなのだろうか

口の中が妙に乾いていく

「……ソウ王子は、どうなのですか…?」

声が震えた

その緊張を感じ取ったソウは、ユナの手をギュッと握った

「昔々あるところに10歳になる少年がいました…」

いきなりはじまった語り口調に、更にわけが分からなくなった

「彼には優しい2人のお兄さんがいて、楽しく幸せな日々を送っていました」

これはソウの話だと思った

口を挟んではいけない気がして、ソウの手を握り返した
話を聞いているという意志を込めて




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