王子の結婚
重厚な扉を開けると、天井は高く、大きな窓より差し込む日差しで明るい、広々とした室内が目に映った
小さな部屋をイメージしていたそこは、想像よりも遥かに立派で、蔵書の数は知れない
「すごいわねぇ!
ここにいたら飽きないわ」
足を踏み入れ周りの棚に目をやる
見たこともない数の書物に心が躍る
「国内外の各地から取り寄せているようですよ
物語から医学書、地図や他国の言語など
調べものは全てこちらで事足ります」
そう説明だけすると、入り口近くの壁際に向かう
「私はここにおりますので、御用がありましたらお呼びください」
と言ってスッと姿勢よく立つ
椅子にかけてと言っても聞いてはくれないと分かっている
いくらユナが彼女の気を緩まそうとしても、それが仕事で、それが当然だと、気が動くことはない
あまりの数の書物に浮かれてしまったが、ここに来たのは目的がある
(できるだけ早く済ませないとね、私の気まぐれで来てるのだし…)
颯爽と歩を進め、まずは分野から、と探してはみるが、
何しろ数が多過ぎて検討もつかない
そもそも彼が言っていた大国を調べるにしても、どこの国か何も分からないのだ
無闇に調べたいなど、短絡的にもほどがある
そんな自分に気付いてはぁ、と溜め息をつく
大国のことは分からない
まずは国史なら見つけ易いだろうと、置かれている場所を探す
さすが自国の記録なので、さほど苦労もせずに見つけ出せた
きちんと製本された最近のものから、いかにも古書といったものまで、何百冊も並べられている
古く煤けて、だいぶ傷んでいるものを手に取った
何百年も前のこの国のことが記されているのだろうか
興味本位で開いてみたが、古語なのか、読むことができなかった
元々知りたかったのはこちらだと、新しい方に手を伸ばす
背表紙に書かれているのは私が生まれた年から翌年の年号
一年間のことが一冊に収まっているようだ
かなり厚みのあるそれは片手で持つには余りある大きさでずっしりと重い
二冊目を取り、三冊目を取ったところで諦めた
できるだけ早くと思っていたものの、かなり時間を要してしまい、慌ててキーナの元へと戻る
離れた時のままの姿勢を保っていたキーナがユナに気付くと慌てて近付いて、ユナの手元を見る
「探しものは見つかったようですね」
と、やはり当然の仕事というようにユナから国史書を受け取り、側に控えた
次は一人で来よう、密かにそう思った