王子の結婚
そしてあの婚姻の話が持ち上がる
相手国は海の向こう、アイギル国というところ
アイギルの第三王女を皇太子の正妃に、と
アイギルは財力も軍事力もある大国で、同盟が組めるというのは願ってもない話だった
この話を断ち、攻め入られでもすれば、弱りきったセイザスに勝ち目はない
弱体化したこの国が不足している物資、資金を援助する変わり、世界中のほとんどの生産を占めているという鉱物を輸出すること
これが婚姻と共に提示された条件だった
この鉱物はこれまでそのものを輸出することはなく、製品加工したものを輸出していた
この国を背負っている産業といってもいいものだ
その鉱物を自国のものにできるのは大きい
セイザスが弱っているこの機に財力を振りかざして手中に収めるといったところか
そしてそれがこの国を救う手としては最善だった
王がその条件を飲み、皇太子と第三王女の結婚が決まった
まだ成人前の王子ということで婚約という形になり、同盟を結ぶ調印式に伴い、王女を招いて婚約式も執り行った
街はその吉報に湧き、久しく暗澹としていた空気が晴れはじめた
同盟後、資金援助を受け、新たに多くの人員を雇用するための試験が行われた
我こそは、と各地から英知ある若者や腕に覚えある者など、長けた者が集まってきた
選ばれた者たちは役人、軍人として任地に向かうため鍛え上げられる
貧しい者に当面の食糧の援助、国の土地を貸借し、農業の斡旋など職を与え、一部の富裕層からは収入に見合った納税を求め、その見返りに新しく制定した貴族階級を与えた
荒れた街で横行していた暴動などを抑える機関も制定され、徐々に整備されていった
ソウに聞いた話が蘇る
これに彼の気持ちなど、もちろん載っていない
彼はこの時、どうしても嫌だと心で叫んでいた
でもそれは許されない国の状況
小さな子供一人の我が儘で、負け戦を引き起こさせることはできない
彼の我慢で国が守れるなら、どちらに天秤が振れるかは決まっている
当時の彼の行き場のない思いに胸が痛かった
でもこの話は消える、そう言っていた
今、彼に正妃はいない
この鉱物の価値がどの程度のものなのか、ユナにはよく分からない
でも元々、この話はどちらかと言えばセイザスに有益なものに思えた
弱体化しているセイザスを制圧し、属国にして鉱物を手に入れることもできたのではないだろうか
なのに何故?
国を陥れようとした内通者も、国を救ったアイギルも
そこに何が隠されているのか、全く見えてこなかった