王子の結婚
ソウの背中に手を回す
気持ちが通い合ったと示すかのように
しばらくそうして抱き合っていたが、ソウから身体を離した
「この前の昔話の続き、してあげる」
突然、そう言った
「姫との結婚を回避できなくて、打ちひしがれて、カイ兄上に泣きついたあと…」
思い出すように話しはじめた────
兄上は意気消沈している僕を、気を紛らわせるためにと何度か連れ出してくれた
皇太子となった僕は、以前のように自由がなく、簡単には王宮から出られない
その逃避とも言える外出に救われた
兄上は当時、自分の統括している任地があって、政務もこなしていた
そのため街へも出ていたようで、僕は一人、兄上とは別の時間を過ごしていた
その時間のお陰で色々と考えることができた
皇太子としての自分の立場、国の現状、そしてこの先…
冷静になるこの時間は、本当に必要なものだった
皇太子の僕が供も付けず、お忍びで出ていたものだから、さすがに人目のつく場所にはいられなかった
兄上に連れられた場所は、どこかの貴族の家で、世話をしてくれる人がついていたけれど、落ち着かなくてそこから抜け出した
もちろん、いなくなったのが知れる前に帰るつもりで
一人でいたかった
でも人通りの多いところは行けないし、足もなくて、フラフラ歩いて行き着いた場所は見覚えがあった
以前、一度来たことがある
物覚えはいい、間違いなかった
だからここにはいられない
見つかったら連れ戻されてしまう
そう思ってその邸の近くの林へと足を向けた
広々としたそこは手入れされているようだった
木々に囲まれひっそりとしている
近くには建物もなく、街の喧騒からも離れている
一面の緑と、所々に花の鮮やかな色彩
すごく美しいところだった
居心地がよかった
他に人も見当たらない
だからそこに腰を下ろした
そこで自分の時間を束の間、手に入れたんだ────
その場所が鮮明に頭に浮かんでくるようだった
それもそのはず
ユナも同じような光景を知っていたから
居場所のなかった家から逃げ出していた場所…
え?
まさか…
「ユナのいたあの場所だよ
あの頃会ってたんだ、僕たち…」