王子の結婚

「私、まだ一度もソウ王子とはお会いしたことがないの
子供の頃からこの結婚は既に決められていて、でも勝手に決められて嫌だと思う気持ちにはならなかったわ」

キーナが抱いている嫉妬など露知らず、ユナは自分のことを話し出した

「結婚が決まったのは私が5つの時で、それがどういう意味かまだ分かっていなかったの
でもその頃にはもう王位継承がほぼ決まっていたみたいで、私が物心つく頃には街でも彼の噂はよく耳にしたわ
とても聡明で身体的な能力も高く、どんな人でも惹きつける魅力がある方だと」

さっきの悲しい表情とは違って、ユナの顔はまるで愛しい人を想うような表情をしている

「噂だけしか知らないのに私はソウ王子の事がとても気になってしまって…
そんな素晴らしい方なら私もきっとお慕いできるに違いない
何だかもう既に、会ってもいない王子に恋しているような気持ちになってしまって…おかしいわね」

そう言って少し照れたように笑った

キーナが黙って聞いている中、ユナはソウの噂からどんどん彼の人物像を作り上げ、想いを募らせてきたことを話した

とても可愛らしい人に見えた

初めて会った時は凛としていて、17とは思えない色香を纏った美人に見えたのに、何故か今は恋をしているただの純粋な少女に見える


「だから王宮に迎えられるのはとても嬉しい事なのだけれど、父上や母上、家族と離れて暮らすのは寂しい
こちらには誰も私の知り合いはいません
すれ違う皆も、どこかよそよそしく心が見えません」

ユナもここの者たちの、内面を読ませないための上辺の笑顔に気付いていたようだった


「でもキーナは少し感情があるように感じたわ
私のことをよく思ってないのかも知れないけれど、それでも一番長く一緒にいるのだから分かり合いたい
嫌な事は言ってくれていいの、直すから
お互いに思った事は言い合いましょう」

ユナはそう言ってキーナを見据えた


(少し緊張しているのかしら?)

ユナの心の震えが伝わってくるようだった


「おかしな事言ってしまったわね、ごめんなさい
ただキーナと仲良くなりたいだけなの」

自信なさげに弱々しく言った
キーナの嫉妬が何かしら伝わっていたのだろう
向けられる冷たい空気がユナを臆病にしていたのだ

キーナは何んだか笑えてきた
邪心があるのは彼女ではなく自分の方だ


「ユナさまが羨ましかったんです、とてもお綺麗で
それにこんな私が普通に友人のようになんて畏れ多いことを、と
でもユナさまがこちらで少しでも安らげる相手になれるのでしたら…」

そう言って軽くお辞儀をした

「私が綺麗だとしたらそれは母上のおかげで私の努力の結果ではないわ
そんな事で私を遠ざけないで
ここで年の近いキーナが側にいてくれるって分かって心強かったの、ありがとう」

ユナは両手でキーナの手を取り、ギュッと握り締め、弱々しかった表情とはうって変わって最上の笑顔を向けた


彼女の笑顔はやはり上辺のものじゃない
彼女は私を蔑むような人ではない


ユナを理解するほどの会話をしたわけでもない
けれど、見た目の美しさだけでない魅力を、キーナは少し分かった気がした






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