王子の結婚
キーナはユナの言葉に不安を覚えつつも、うまく説明もできぬまま夕食の時間を迎えてしまった
煌びやかな装飾の施されたその一室には大きめの丸テーブルが置かれ、4つのテーブルセットが整っていた
その1つの前に男性が座っている
扉から一番近い席で後ろ向きにいるので拝顔はできない
長い黒髪、広い肩幅、座っているが背が高いのは分かる
ソウ王子…?
ユナの胸がドクンと高鳴った
ユナが入って来た事に気付いた彼が立ち上がり振り返る
ドキドキと胸の高鳴りが収まらず、つい下を向いてしまった
(どうしよう…緊張しすぎて顔が上げられない)
微かに指先が震える
ついに待ち望んだ時が来たというのに、ユナの緊張は最高潮でまるで頭が回らない
ふぅ、とひと息ついて、顔を上げなければ、と意を決した
「はじめまして、私…」
顔を上げながらはっきりと挨拶をしかけ、彼と顔を合わせた瞬間に言葉が止まってしまった
にっこりと微笑む彼の笑顔が、どこか違和感を感じる
妖艶というか、獲物を捕縛する獣のような…
ユナの思い描いていたソウ王子とのギャップに自己紹介の言葉すら続かなかった
すると彼の方から口を開いた
「聞きしに勝る美しさだ」
そう言ってユナの指先を手に取り、そこに軽く口付けた
「俺の妃に迎え入れられないのが残念だ」
軽やかに笑いながら手を離す
ユナはどういうことか理解できなかった
答えはすぐに彼の口から発せられた
「俺は第二王子のイルだ
母上は違うがソウの兄だ、よろしく」
言いながら元より座っていた席にかける
ユナも女官に促されイル王子の向かいの席にかけた
(2人で夕食ではなかったんだ…)
先ほどまでの緊張が徐々に落ち着いてきた
そんなユナに気付いてか、イルが話しかける
「君は王宮には初めて?
俺の顔を知らなかったようだけど」
その言葉に「はい、初めてです」と、小さく答える
ソウ王子と勘違いしてたということを気付かれていると悟って無性に恥ずかしい気持ちになった
「ソウは色々と噂が立っているようだね
でも街での噂は…」
カタン
イルが話している途中に扉が開いた
ユナの視線が自然とそちらに向かう
彼と目が合った
(ソウ王子だ…)
そこには噂に聞いたままの、誰の目も奪う美しい姿があった