姉弟ものがたり


「誘ったのは僕だから、これは一緒に来てくれたお礼」


にっこり笑ってやんわり拒否されると、この空気をぶち壊すのも悪い気がしたので、素直に財布をしまってありがたくその好意を受け取る。


「ありがとうございます。じゃあ、遠慮なく頂きます」


笑顔でお礼を告げながらぐいっと遥を肘で小突いてやると、夢中でポップコーンを見つめていた視線が、ようやく学に移動する。


「ありがとう、まなぶくん!」

「はい、どういたしまして」


その嬉しそうな満面の笑顔に、学の頬も緩む。

いつも穏やかな印象の学だが、遥と一緒になるとその空気がいつもの三割増で和やかになるような気がする。

なんというか……二人が見つめ合って微笑むと、そこだけ春が来たような、そんな感じ。


「じゃあ入ろうか」

「はい。でもその前に姉ちゃん、行っといた方がいいんじゃないのか」

「実はもう行ってきたのでしたー!」


トイレを指差して指摘すると、遥がえっへんとでも言いたげに胸を張る。

その得意げな姿に、学が可笑しそうにクスッと笑った。
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