姉弟ものがたり

映画には欠かせないのだと力説していたポップコーンを携えて、意気揚々と歩いていく遥の隣にさりげなく学が並んで、万が一にもこけたりしないように細心の注意を払う。

その後ろに、これまた万が一のアクシデントに備えて優が続くが、そんな二人の苦労など露知らず、遥は映画の主題歌を口ずさみながら、足取りも軽く進んで行く。


「遥ちゃん、そこだよ。その右側のドア」

「姉ちゃん、足元に気をつけろよ」


中に入った途端、目の前に広がる巨大なスクリーンに、遥の瞳が一気にその輝きを増す。

これは完全に足元がお留守になる危険信号だ。

更なる注意を払いながら、三人一列になって奥へと進んでいく。

これからここで上映されるのは、かつて自分と同じ校舎で学び、自分と同じサークル活動に興じた先輩の作品なのだと思うと、それだけで胸がいっぱいになる。

密かな興奮を押し込めて平成を装っていると、「優くん」と控えめな声量で名前を呼ばれた。

視線を向けると、自分より一段低いところに立っている学が、足を止めて微笑んでいる。


「ゆるいけど段差になっているから。優くんも、足元気をつけてね」





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