姉弟ものがたり


「これ、捨ててくるついでにトイレ行ってくる」

「うん。ここで待っているから、ゆっくりでいいよ」


溢れ落ちないように丸まったティッシュを両手で包み込んで、遥が再び館内に駆け戻っていく。


「お見苦しい所を見せてしまって、すみません……」

「遥ちゃんらしいよね」


遥の代わりに頭を下げて先ほどの醜態を詫びると、学からはいつもの穏やかな笑顔が返ってくる。


「優くんはどうだった?憧れの先輩が作った作品は」


恋愛ものとは言っても、男でも楽しめるよう工夫された作品は、正に伝説の名は伊達ではないと思える映画だった。


「想像以上でした。正直、恋愛ものだから男にはちょっとなって思っていた部分もあったんですけど、そんなの一瞬で吹っ飛んじゃうくらい凄かったです」


遥とはまた違った意味で、感動した。


「あの人はやっぱり、伝説の人です」


写真でしか見たことがない、話でしか聞いたことがない人の名前が、エンディングの最後、スクリーンに大きく映し出されたとき、感動がピークに達した。
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