姉弟ものがたり
「その時から、好きな作品なんだ。舞台も何度か観に行ったことがあってね」
一瞬だけ、学の目元が切なげに揺れる。
「舞台の時もなかなか凄かったけど、スクリーンで観るとまた感じが違うね。演じる人達によっても微妙に表現の仕方が変わってくるし、すごく面白かったよ」
遠くを見つめるその先で、学は舞台のことを思い出しているのだろうか、それともさっき観た映画のことを思い出しているのだろうか、ゆっくりと下りてきた視線が優を捉えてピタッと止まり、柔らかく微笑む。
「晩ご飯、優くんは何が食べたい?」
唐突な話題変更だったが、そこから話を戻すのもおかしいので、優も腕時計に視線を落とす。
晩ご飯にはまだ少し早いような気がする時間帯だが、早くともお腹は減っているし、ポップコーンを平らげた遥の方は少々心配でもあるが、あれだけ念を押したのだから問題はない……と思いたい。
穏やかな笑顔で返答を待つ学に視線を移し、しばらく悩んでから口を開く。
「もし、よかったらなんですけど……」
ん?と首を傾げる学に、恐る恐る。