姉弟ものがたり


「そう言えば、お家に連絡しなくても大丈夫?急に押しかけたらご迷惑じゃないかな」


ふと思い出したように呟いた学が、不安げにその歩調を緩める。

そんな礼儀正しいところと、遥のダメ過ぎるところを理解してもそばにいるところが、小山家ではかなり高評価で、両親共に学のことをとても気に入っていた。


「それは大丈夫ですよ。だって」

「だってお父さん達、昨日から泊まりがけで地方の友達の結婚式に出席しているから、今日は家にいないんだ。帰ってくるのは、明日の朝」


優の言葉を遮って、遥が説明を始める。

突然の来訪でも、相手が学ならば両親は絶対に拒まないことはわかっていたが、今日はどちらも泊まりがけで出払っているため、特に心配はいらない。


「だから、全然遠慮しなくていいんだよ!」


遥がにっこり笑って腕を引くと、学が再びその隣に並んで緩めた歩調を元に戻す。

茜色と紫色が複雑に混じり合っていた空に、次第に夕闇の気配が漂い始める。

学が言った通り、日が落ちれば確かに少し肌寒くて、薄手の上着がとてもありがたい。

二人並んで、その後ろに一人、家までの道のりを、他愛ない話で埋めながら歩いていく。

そんな何気ない時間が、温かくて、幸せで、先行く二つの背中を見つめて、優はそっと頬を緩めた。





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