姉弟ものがたり
「いいんですけどね、別に。姉ちゃんを一人で家に残して出かけたら後が怖いですから。あれで勉強も運動もそこそこできるのに、家事だけは壊滅的にダメだから……」
冷蔵庫を開けて中を確かめると、思っていたよりも食材が残っていて一安心。
「誰にでも、得意不得意ってあるものだからね」
「それにしたって、家事ができないってどうなんですか?姉ちゃんの将来が物凄く心配になりますよ」
とりあえず、目ぼしい食材を取り出しながら、考えていた候補の中で更にメニューを絞り込んでいく。
「その時は、僕が貰うから大丈夫だよ」
突然の思わぬ発言に驚いて勢いよく振り返ると、学いつも通り穏やかな笑みを浮かべていた。
「ま、学さん……今なんて?」
開けっ放しの冷蔵庫がピーピーと警告音を響かせているが、今はそれに構っている場合ではない。
「僕だって、中途半端な気持ちで遥ちゃんと付き合っているわけじゃないからね」
リビングを見れば、グデーンと体を伸ばした遥がいて、前を向けばにこやかに笑う学がいる。
いい加減煩くなってきた冷蔵庫の扉を閉めると、その場が異様な静けさに包まれる。