姉弟ものがたり
「ダメだよ、遥ちゃん。いきなり人に抱きついたりしたら。優くんじゃなかったら、僕怒っていたかもよ?」
腕を掴まれて中途半端に万歳をしているような格好になった遥が、首だけで上を見上げるように振り返る。
「まなぶくんってば、お母さんみたい。お母さんも、ゆうくんにタックルすると怒るんだよね。これで怒る人が二人になった……いや、お父さんも入れたら三人か。あっ、でもゆうくんも怒るから四人かな?」
首を傾げて指折り数える姿に学は苦笑すると、掴んでいた腕を離して腰を下ろし、後ろからふんわりと遥の腰に腕を回した。
「ご両親が怒るのとはちょっと意味が違うんだけど……遥ちゃんには、わからなかったかな」
囁くようなその声は、すぐそばにいる遥にしか届いていない。
「わたし、わかってるよ」
だからそれに答えた声も、聞き取れたのは学だけ。
「ちゃんと、わかってるよ」
振り返って学を見上げた遥が、ふふっと楽しげに笑う。