姉弟ものがたり
「ゆうくんじゃなくて別の男の人だったら、ヤキモチ焼いちゃうってことでしょ?」
何もわかっていないようで実はちゃんとわかっている、そんないたずらっ子のような笑顔に、堪らず学は俯いた。
「やられた……」
「えへへ、わたしの勝ち!」
学はほんのり頬を染めて顔を手で覆い、遥は勝ち誇ったように笑っている。
めったにないその光景に、一人状況が理解できていない優は、動くこともできずにその場に立ち尽くした。
もしほんの少しでも動いてしまったら、二人の幸せそうな空気を壊してしまいそうで、動けなかった。
けれど次の瞬間、優は黙って立ち尽くしていたことを激しく後悔する。
「遥ちゃんが可愛すぎるのがいけないんだからね?」
独り言を思わせる囁きに、音を拾った遥が、ん?と首を傾げたその時、一瞬の隙を突いて学の顔が近づいた。
さりげなく頬に添えられた手で顔が固定されて、逃げる間もなく遥の唇が塞がれる。
それはほんの一瞬の出来事で、触れ合いも囁かなものだったが、不意打ちの攻撃に遥は声も出せず、その光景を目撃してしまった優もまた、抗議の声さえ上げることができなかった。