姉弟ものがたり
「今日はありがとう。優くんのご飯、とっても美味しかったよ」
「いえ、そんな大したものじゃ。むしろ、何かすいません……姉ちゃんのやつ、見送りもしないで」
言葉の途中で振り返った優は、恨めしげに閉め切られたリビングのドアを睨みつける。
その向こうでは、ソファーの上で安らかな寝息を立てている遥がいる。
「いいんだよ。きっと、楽しすぎて疲れたんだろうから」
同じようにリビングのドアに視線を移した学は、優とは反対に柔らかく目を細める。
「学さんも、たまにはガツンと言ってやってくださいよ。毎回毎回、寝坊して遅刻しては一人ではしゃぐだけはしゃいで、かと思えば突然電池が切れて寝始めるんですから」
「そうだね」と楽しげに笑う学が、ドアから優へと視線を動かす。
「でもね、僕はそんな子供みたいに無邪気で自由な遥ちゃんが好きなんだ」
屈託のない笑顔と真っ直ぐな言葉は、きっと優を通してここにはいない遥へと向けられたもの。
彼氏の見送りもせずに寝入ってしまった姉に、教えてやりたいと思った―――どれだけ自分が、想われているのかを。