姉弟ものがたり
「ドアの横にかけてあったワンピース、今日着て行くんだろ?リビングに置いとくからな。あと鞄も」
洗面所で慌ただしく身支度を整える背中に通り過ぎざまに声をかけると、ハッとしたように振り返った遥は、わざわざ洗面所から顔を出して大変嬉しそうな声をあげた。
「ありがとう、流石ゆうくん!ゆうくんみたいなよくできた弟を持てて、わたしは幸せだよ」
「はいはい、早くしないと遅れるぞ。いや……もう遅れるのは確定か」
さっきまで鬼だの悪魔だの騒いでいた人のセリフとは思えないが、どうせ変わり身の速さはいつものことなので気にしない。
気にしたってしょうがない。
それよりも今は、チラリとリビングの壁掛け時計を見上げた先、絶望的な時間の方が気がかりだった。
「結局また遅刻か……」
あんなに大きな字でカレンダーに書き込んで、何日も前から楽しみにしていたくせに、相変わらずのだらし無さに思わず頭を抱えたくなる。