姉弟ものがたり

電話口に向かって精一杯不機嫌な声を出して見せると、変にかしこまったような謝罪が返ってくる。


「気をつけて行ってくるんだよ」


続いた学の声音は何時も通り優しくて、緩む頬に手を添えて小さく返事を返す。


「そういえばね、この前話したお店の名前わかったんだ」

「あの、道に迷ってたどり着けなかったっていう?」


学が楽しそうにまたクスりと笑う。


「まなぶくんってば、笑いすぎです」

「おっと、これは失礼」


おどけたような学の声に、笑いそうになるのを必死でこらえて勤めて平静を装う。


「知りたい?」


少しだけ焦らしてみせるのは、先程笑われたことへのちょっとした仕返し。


「是非、教えてください」


それがわかっていても合わせてくれる学の優しさに、再び緩んできた頬をパシッと手の平で抑え咳払いを一つ。
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