姉弟ものがたり
「映画、観たよ」
そのあとに続く言葉も、考えることなく自然と口から溢れ出ていた。
しばらく間が空いて、彼女が「そう」と応えた。
「女優の“谷中真緒”が好きだって言う人と、一緒に観に行って来たんだ」
また、しばらく間が空いた。
彼女がスクリーンの向こうで夢を叶えた姿を、彼女ではない人と並んで見つめた。
「…佐久間は、今幸せ?」
彼女は今、何を思っているのだろう…。
なぜ今頃、連絡を取ってきたのだろう…。
「真緒は?」
どうしても、彼女の答えを先に聞きたかった。
しばらくの沈黙が続いた後、思い切ったように彼女が言った。
「私は、すごく幸せ」
自然と笑みが浮かんだ。
ジリジリした胸の痛みが、少しずつ小さくなっていく。
しばらく黙って目を閉じていると、忘れようとしていた過去が目まぐるしく脳内を流れていった。
全てが…いい思い出だと思えた。
「僕も、今すごく幸せだよ」