姉弟ものがたり


「…待ちくたびれたわよ」


それでも、小さく聞こえた声が嬉しそうな響きを帯びていたからフッと肩の力が抜けた。


「今度ね、久しぶりに舞台に出るの。
チケット、二枚送っておくから」


彼女の楽しげな声を聞きながら、カップに手を伸ばす。


「良かったら観に来て、二人で」


冷め切ったコーヒーを啜りながら、チケットを見て大喜びする姿を思い浮かべる。
子供みたいに全力ではしゃいで、満面の笑みを浮かべる姿を想像すると、それだけで心が温かくなった。


「ありがとう、きっと彼女も喜ぶよ」


幸せを噛み締めながらコーヒーを啜る。

なんだか無性に、あの笑顔に会いたくなった…。





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