姉弟ものがたり


「ただいまー!」

「おかえり」

「行ってきまーす!」

「いってら…はあ!?今帰ってきたばっかでどこ行くんだよ」


バタバタと廊下を駆ける忙しない遥を、玄関でようやく呼び止める。


「まなぶくんから“会いたい”ってメールが来たからちょっと行ってくるの」

「…学さんが急にそんなこと言うなんて珍しいな」


もどかしそうに靴紐を結んだ遥が、携帯を握り締めるとドアノブに手をかけて振り返る。


「そんなわけだから、ちょっと行ってくるね!」


夕闇が押し迫る中に今にも飛び出さんばかりの遥を再び呼び止める。


「急ぎすぎて転ぶなよ、あと遅くなるようなら連絡しろ」


笑顔で頷く遥の姿がドアの向こうに見えなくなるのを待って、小さく息をつく。
玄関にほっぽりだされたままの鞄をリビングまで運んでソファーに腰掛けると、つけっぱなしになっていたテレビに視線を戻した。

そう言えば、今日は好きな女優が出るから絶対に見逃せない番組があるのだと力説していたような気がする…。


「何時からだっけ…まだ録画間に合うかな」





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