東堂くんは喋らない。
「……インフルエンザだ」
夏の暑さがまだまだ続いている、秋。
死ぬほど悪い顔色で、そう言ったのは山本だ。
「…山本。インフルって大体冬に流行するものだって、知ってた?」
「でもインフル並みに具合悪いんだよ!つーことで本日のリレー練習はなしだ。グッバイ」
そしてヨロヨロとした足取りで、教室を出て行った。
うーん、さすがに少し心配だけど…まぁ大丈夫だろう。山本だし。
「柑奈、今日久しぶりにどっか行かない?リレーの練習ないし」
「ごめん、私今日家の用事頼まれてて、すぐ帰らなきゃ」
柑奈を誘ってみたけど、申し訳なさそうに断られてしまった。
「そっかぁ、じゃぁ仕方ないね」
「ごめんね、また今度。じゃ、お疲れ~」
そして早足で教室を出て行った。
…なんだか、久しぶりに暇な放課後だ。私もたまには早く家に帰って…
トン、とその時、席に戻ろうとした私と、誰かの肩がぶつかった。
「…と、東堂くん」
「……」
ふ、といつものように視線を逸らす、東堂くん。