東堂くんは喋らない。
昇降口から運動靴に履き替え外に出る。
校庭は、これから始まる体育祭へのワクワクと熱気で溢れていた。
「テンション高いね、みんな~」
「だな」
東堂くんが頷いて、
「…ま、皆、山本には負けるけどな」
「それ言えてる!」
東堂くんの一言に思わず、笑う。
なんたって山本の体育祭への情熱は半端ないから。
「でも、やるからには優勝目指したいしね!がんばろ、東堂くん」
「おー」
…東堂くんとあの公園で話してから、一か月くらいの時間が経った。
東堂くんは前と変わらず、私に接してくれている。
それがどれだけありがたいことなのか。
私はよく分かってるつもりだった。
「…あ」
「ん?」
「髪、食ってる」
東堂くんの指がふっと一瞬、頬に触れて、すぐに離れていった。
「…あ、ありがとう」
ドクン、と血液が触れられたとこ全部に集まったみたいに熱い。
こ、こんな不意打ちするから!
私はそれを全部東堂くんのせいにして、確かに感じた熱なんてなかったことにする。
「…髪の毛」
「えっまだ髪の毛食べてる!?」
焦って必死に口周りを拭うと、「違うから」とそれを制された。
「違くて。あの……あのさ」
「う、うん」
「…似合ってると…思う。その、髪型」