東堂くんは喋らない。
「…え?東堂?どうし…」
「痛いんだろ、足」
東堂くんのそんな言葉に、ハッと夏海ちゃんが息をのんだのが分かった。
「さっき、俺からバトン受け取る時隣の奴にぶつかられて…捻ったろ」
…え、そうだったの!?
夏海ちゃんを見ると、動揺したように瞳を揺らして、そしてその右手が、庇うように右足首を触った。
「大丈夫なの?夏海ちゃん、はやく保健室行った方が」
「だ、大丈夫だよ〜!このくらい、全然大したことないし」
ニッコリ笑って、立ち上がろうとする夏海ちゃん。
だけど立ち上がった瞬間、その顔が苦痛に歪み、右足から崩れ落ちるように倒れた。
「夏海ちゃ…!」
「…嘘つくな」
倒れそうになる夏海ちゃんを咄嗟に支えたのは、東堂くんだった。
「大丈夫じゃないだろ、全然」
グッと眉をひそめて、夏海ちゃんを見下ろす東堂くん。
「…と、東堂…ごめん」
「何に謝ってんだよ。…歩けるか?」
「う、うん…、っ、」
東堂くんの腕に捕まったまま、一歩踏み出した夏海ちゃんがギュッと唇をかむ。
「ど、どうしよ、担架とか借りてこようか?」
「…や、大丈夫。松原、ちょっと下がって」
オロオロとそう言った私に東堂くんはそう言うと、次の瞬間、夏海ちゃんを両手で抱きかかえた。
…そう、要は、お姫様抱っこ、ってやつだ。
「…う、おおお!俺、生のお姫様抱っこて初めて見たわ!」
「…うるさい」
なぜか興奮している山本を心底鬱陶しそうに睨み、東堂くんが夏海ちゃんを抱きかかえたまま歩き出す。
「…と、とと、東堂!?ハズいんだけど!?」
「…あんたもうるさい」