東堂くんは喋らない。
「う、うん」
言われるままに牛タンを取って、東堂くんのお皿にのせる。
「このくらいでいい?」
「……うん」
コクリ、と東堂くんが頷いた。
だけどまだ、そこを動こうとはしない。
「東堂くん?他にも何か取ろっか?」
「………」
…え、シカト?
「東堂も、リレーお疲れ!いい走りだったぞ!」
遠藤くんが何も言わない東堂くんを気遣ってか、そう労った。だけど
「……おー」
機嫌悪そうにそんな返事をしただけ。
何でこんなにご機嫌ナナメなんだろ…もしかして、焼肉バイキング嫌いとか?
「ここ、東堂くんの好きなお豆腐置いてないしね?」
「…は?」
なぜかギロリと睨まれてしまった。え、違ったの?
「…ふはっ」
すると、突然吹き出したのは遠藤くん。おかしそうに、クスクス笑っている。
「え、突然どうしたの?」
「…いや、何でもないよ。じゃ、また後でね」
そして何かを悟ったかのようにうんうんと頷くと、席の方へ歩いて行ってしまった。
…どうしたんだろう。
そしてふと、気付く。…いま私、東堂くんの、すぐ近くにいる。
そしたら何だか急にソワソワしてしまって、私は慌てて東堂くんから視線を逸らして、たくさんのお肉たちに向けトングを構えなおした。
「とっ東堂くん!他、何のお肉取ろうか?」
「あー…いや、いいや。俺肉、あんま好きじゃないし」
え!?