東堂くんは喋らない。
「あ、東堂」
そこに通りかかったのは夏海ちゃん。
手にメロンソーダを持っている。茶色のシックなワンピースを着ていて、学校ではジャージ姿も多くて活動的な印象だけど、なんだか今日はとても女の子っぽくて可愛かった。
私はふと、自分の恰好を見下ろす。
最近買ったこの赤いショーパンはお気に入りだけど、そういえばスカートとかワンピースとか…あんまり履かないかも。
「今日は、ありがとね。帰って病院行って湿布貼ってもらったら、結構よくなった。
部活も普通にできそうだし」
「…あそ。無理すんなよ」
ふい、と顔を逸らして言う東堂くんに夏海ちゃんが笑みを零す。
「うん、ありがと」
…なんだか、この2人、とっても…
「なんか2人、いい感じじゃないっ?」
私が思っていたことをそのまま、全く同じタイミングで、夏海ちゃんの隣にいた佳代ちゃんが言った。
「は…はぁ?佳代、何言ってんの」
夏海ちゃんが呆れ顔で言う。
「だって、そーじゃん。今日のリレーの後だって、まるで東堂、夏海の彼氏みたいだったよ?」
「つーかお前ら付き合ってんじゃね~の~?」
チャカすようにそう言い始めたのは、話が聞こえたらしい通すがりの男子だ。
「は…はぁあ!?付き合ってないし。ねー東堂?」
コクリと東堂くんが興味なさそうに頷く。
「へーお似合いなのにな?付き合っちゃえよ!」
ガシッとヘラヘラした男子に肩を組まれる東堂くん。
「私もいいと思うな~」
佳代ちゃんもそれに同調する。
「………」
黙って黙々とお寿司を食べ続ける東堂くんも、否定しながらも笑顔の夏海ちゃんも、なんだかマンザラではないように見えて
「…香弥?」
そっと立ち上がった私に、唯一気付いた柑奈が心配そうに声をかけてきた。
「あー…ちょっと、トイレ。すぐ戻るから」