東堂くんは喋らない。
そう言って私が向かった先は、トイレではなく。
「あー…私…、何やってんだろ」
お店の外の、花壇脇に置いてあるベンチだった。
見上げた夜空は必要以上に綺麗な満点の星空だけど、それを楽しむ余裕は今の私には全くない。
あるのは理由不明の変なモヤモヤと、そんなモヤモヤを抱く自分への、自己嫌悪。
まるで、保健室の前で、2人の背中を見送ったときの、あの感覚に似ていた。
ギュッと胸が痛くて、苦しくて、どうしようもなくモヤモヤして。あの感覚に。
「…意味わかんないし」
東堂くんと夏海ちゃんは、私もお似合いだと思うよ。
東堂くんは実はすごくイケメンだし、夏海ちゃんはスポーツ万能だし可愛いし。
そこに、私がモヤモヤする理由なんて一つもないはずだ。
ないはずなのに
「……何してんの?」
「…へ?東堂くん?」
突如降ってきた声に顔をあげると、怪訝そうな顔で私を見下ろす、東堂くんが立っていた。
「あー…何か急に外の空気吸いたくなっちゃってさ!」
「…ふーん」
東堂くんが何かを逡巡するように瞳を伏せると、ためらいがちに、私の隣に腰をおろした。
「…大丈夫なわけ?体調は」
「体調?うん別に、何もないけど?」
「……あそ」
不思議そうな私の視線に気づいたらしい。
東堂くんがバツの悪そうに、視線を逸らす。
「…だから、保健室来たときも本当は、具合悪かったのかと、思って……」
…もしかして心配、してくれたんだろうか。
それに気づいて嬉しく思ってしまうのと同時に、夏海ちゃんの言葉が思い出される。
『東堂って、意外と心配性だよねえ』
…そうだよ。別に、東堂くんは私だけに特別なんかじゃない。
たぶんこれは東堂くんにとって普通のことなんだ。