東堂くんは喋らない。
「…東堂くんは優しいね」
笑って言ったつもりだった。
だけど、彼の目にはどんな風に映っていたんだろうか。
「…なんかあった?」
心配そうに、私の顔を覗き込もうとする東堂くん。
「え、何で?」
「…別に…元気なくない?」
なんだか私の奥底のモヤモヤが見透かされたような気がして、慌てて取り繕うように口角をあげる。
「全然元気だよー!」
「…なんか棒読みだけど?」
「棒っ…!?そ、そんなことないって!」
「…すごい嘘っぽいけど」
「嘘っ…じゃないから!」
「…なんで隠すの?」
「だから隠してなんかないから!!」
思わず強い声が出た。
東堂くんが驚いたように目を瞠る。
ちょっと遅れてきたのは罪悪感。それでハッと我に返る。
「あ…ご、ごめん」
「…や、俺もしつこくて…ごめん」
舞い降りたのは気まずい沈黙。
秋を感じさせる、冷たい秋風が頬を撫でる。
どっちも黙ったまま、何分くらい過ぎたんだろう。いや、何秒?
東堂くんが、ベンチを立った。
「……気付いたら、目で追ってんだよ」
「…え?」
「気付いたら…いつも見てんの。あんたのこと」
ふっと切なげな笑みを投げかけられて、ギュッと胸が縮まった。