東堂くんは喋らない。
「…ダメだよな、こんなの。
もうきっぱり振られてんのに。…友達でいるって言ったのに」
「…東堂くん」
「あんたのこと、気になって仕方ないんだ」
東堂くんは、すごく辛そうなのに。
心の中では、素直に東堂くんの言葉を嬉しいと思ってしまう自分がいて。
さっきまでのモヤモヤが、スッと和らいでいくのと同時に、
泣きたくなるくらいの痛さが、胸を突き刺していく。
ねぇ東堂くん。
私、こんな気持ち知らない。
「…こんなこと言われても、困るよな」
…じゃ、と東堂くんが歩いていこうとして
「行かないで」
それは無意識に。突然だった。
気付いたら私は立ち上がって、東堂くんの服の裾を、引きとめるようにつかんでいた。
「……松原?」
「ごめん…行かないで。行っちゃ、やだよ」
…私は一体何をしてるんだろう。何を言ってるんだろう。
そんな自己嫌悪が頭の中をグルグル回るけど、それ以上に何か熱いものが込み上げてきて、私は手を離すことが出来なかった。
…東堂くんが少し掠れた声で聞く。
「…松原…俺のこと好きなの?」
「………それは…」
「好きじゃないんだろ?」
東堂くんが振り向いて、私の手を離した。
そして苦しそうに微笑む。
「好きじゃないんなら、こういうのやめろよ。
好きじゃないんなら、」
東堂くんの右手が、そっと私の左頬に触れる。
「…嫌われた方がずっと楽だ」
微かに触れた唇は、熱だけ残してすぐに離れていった。