東堂くんは喋らない。
東堂くんと、私のはじまり。
「おはよ、山本」
「はよーっす」
次の日学校に行くと、隣の席の山本が難しい顔でなにやら読書していた。
そうだ、もう東堂くんの隣じゃないんだ。
改めてそんなことを感じてしまって、気を取り直すように山本に聞く。
「何読んでんの?」
「よくぞ聞いてくれた。コレだ!」
バーンッ!と効果音がつきそうな勢いで、表紙をこちらに向ける山本。
そこには、カラフルな文字で“楽しい遊園地デート♡決定版”と書かれていた。
「勝負に勝つためにはまず敵を知ること、って言うしな!」
うーん、遊園地は別に敵ではないと思うけどな。
なにか違和感を感じながらも、とりあえず生暖かい微笑を送っておくことにする。
「ちょっと香弥」
そこへ柑奈が登校してきた。
「昨日のアレ、結局どーいうことなの?」
昨日のアレとはもちろん、山本が初デートに誘う現場を、私が覗き見(させられたんだけどね)していたことについてだろう。
「あぁ、あれはね…」
「おお!いいところに、峰岸!」
すると柑奈に気付いた山本が、雑誌片手にテンション高く近寄った。
「見ろよこの観覧車!なんとな、頂上で愛を誓ったカップルは永遠に結ばれるって!」
「ふーん。で?」
「え、女子ってこういうの好きだろ?」
「だって、私と山本には全く関係なくない?」
ガーン、と効果音が聞こえそうな勢いでショックを受けている山本。
ど、どんまい…。