東堂くんは喋らない。
山本が私を不思議そうな顔で見ている。
私は慌てて東堂くんの席を見た。
が、既にそこに彼の姿はない。
焦ってグルリと教室を見渡すと、カバン片手に颯爽と教室を出ていこうとする彼の姿が…
東堂くん、行動早すぎ!
「じゃーね山本!」
「お、おう?」
私もカバンをひっつかむと、ダッシュで教室を出た。
「とっ東堂くん!!」
まだ人が少ない廊下。
彼に追いついたのは、ちょうど二階に降りる階段のすぐ手前だった。
ビクッと一瞬肩を揺らして、東堂くんがゆっくりと振り向く。
「…松原?」
「と、東堂くん、やっぱ歩くの速いよー…」
はぁはぁと息をしながら東堂くんの前に立つと、彼がちょっと驚いたような、気まずそうな顔で私を見下ろした。
「…………」
「…………」
そして、沈黙。
…や、やばい。こんなに東堂くんと近くで向き合うと、あの打ち上げの時の、キ、キスがどうしてもっ…
「……用ないなら行くわ」
「えっ」
すると、黙りこくる私に痺れをきらしたのか、クルリと背を向けられてしまった。