東堂くんは喋らない。
「はやい!帰るのはやすぎるよ!」
「………疲れた」
「一球投げただけでしょうがー!」
そんな私の引き留めも虚しく、歩みを緩めることない東堂くん。
もう…
「…ありがと、ほんの少しでも来てくれて」
すると、東堂くんの足が止まった。
そして振り向いた彼の表情は、いつものように仏頂面。
「…なんでアンタがお礼言うの。別にアンタのためじゃないけど」
「知ってるよ!知ってるけど、私は来てくれて嬉しかったから」
だから私も仏頂面で対抗。
でも、そんな私を見て、彼の頬がふっと緩んだ。
少し長めな前髪の奥の瞳が、綺麗に細められる。
「……今度すき家な」
そしてそんなセリフを残すと、颯爽と自動扉に消えた。