東堂くんは喋らない。
優月、と彼の口から発せられた名前は、すごく優しい響きで。でも少しだけ震えてて。
女の子…優月さんが、少しずつ近づいてくる。
綺麗な長い黒髪を、ハーフアップにしたすごく美人な女の子。
パッチリした瞳に、長い睫。
まるでお人形さんみたい。
思わず見とれてしまった。
「びっくりした…まさかこんな所で会うなんて」
優月さんの声も、心なしか少しだけ震えていた。
ギュッと、東堂くんが唇を結ぶ。
「…あの…一哉、私あの時のことずっと謝りたくて…「行こう」
「えっ…」
グイ、と強い力で手首を引っ張られた。
つんのめるようにして東堂くんに引かれるまま歩き出す。
「ちょっ…と、東堂くん!?」
「……なに」
「いいの!?あの子、なんか話しかけて…」
振り向くと、優月さんがじっとこっちを見つめていた。
寂しそうな、何か言いたげな。
「東堂くん!」
「…うるさい。関係ないでしょ」
暫く歩いたところで、パッと東堂くんが手を離した。
私に背を向けたまま、ハァ、と肩で息をしている東堂くん。
…なんか…いつもと違う。