東堂くんは喋らない。
足元にはココア。どうやらお散歩中だったようだ。
それにしては大分遅いような…。
「今日はずいぶん遅いんだね、お散歩。何か用事あったの?」
「…遅いのはお前だろ」
フッとそっぽを向く東堂くん。
「何してんだよ、ハチの散歩は?」
「あー、今日はちょっと用事あって…」
「あっそ」
クルリと背を向けた東堂くんが、スタスタ、ココアをつれて歩いていく。
ってちょっとー!
「東堂くん待って!」
慌てて追いかけると、しぶしぶ止まってくれた。
「…なに」
「……あの……コレ」
東堂くんに、手に持っていた紙を差し出す。
怪訝そうに受け取る東堂くん。
「……何これ」
「優月さんから」
瞬間、東堂くんの顔色が変わった。
深く眉間に皺が寄る。
「なんで…」
「今日、偶然優月さんに会ったの。それで、東堂くんに渡して欲しいって頼まれて」
グシャ、と東堂くんの拳の中で、それが握りつぶされる。