東堂くんは喋らない。




そしてそのまま歩いて行こうとする東堂くん。



「待って!」



慌てて腕をつかんで、引きとめた。




「優月さん、どうしても謝りたいんだって、東堂くんに」



「………」



「東堂くんが辛いとき、何もできなかったこと」



「…おまえ」




東堂くんの冷めた瞳が、突き刺さる。




「…ごめん、きょう全部聞いた」



「………」



「あの…」



「…別にどうってことないでしょ」




私から目を逸らした東堂くんが、どこか自嘲的に呟いた。




「…全然大したことじゃないでしょ。全然、なんでもない…」



「なんでもなくなんてないよ」




ギュッ、と東堂くんの腕をつかむと、驚いたように私を見た。





「…辛かったね。


だけどもう、一人じゃないよ」









< 84 / 268 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop