東堂くんは喋らない。
「…………」
「…………」
「…………」
東堂くんは…何も言わない。
ただ、黙って私を見つめている。
「あ、あのー…東堂くん?」
すると、ハッとした東堂くんがバツの悪そうに視線を逸らした。
「……なに言ってんだよ、他人のくせに」
「…た、他人じゃないよ!私は東堂くんの友達…に、これからなる予定の…!」
「でもお前でよかった」
東堂くんが、どこか優しい瞳で私を見る。
「傍にいる他人がお前でよかった」
「……え…」
思わず、グ、と唾をのんだ。
ドクン、と心臓が揺れる。
いま…傍にいるのが私でよかった、って…!
じっと見つめる私に、東堂くんが我に返ったように気まずそうな顔をした。
そして
「帰る」
ひとこと、そう言い放つと物凄いスピードでココアを引っ張り歩いて行く。
と思ったら、ハタと立ち止まり。クルリと踵を返すと
「え…え!?」
再び物凄いスピードでこっちに戻ってきた。
「あ、あのー…?」
「……帰んないの」
深く眉間に皺を寄せた東堂くんが、睨むみたいにして私に聞く。
「…か、帰るけど」
「…………あっそ」
そしてまた背中を向けてスタスタと…
歩いていったはずだったけど、すぐに立ち止まって、クルリ、振り向いた。
「……はやくしなよ」
…えーと。
もしかして。
すっごく分かりずらいけど、もしかして。
一緒に帰ろうってこと…!?
「うん!帰ろう東堂くん!」
「…なにニヤついてんの」
「えー?いつもこの顔だけど?」
はじめて隣を歩いた帰り道は
少しだけ夏の始まりを感じた夜でした。