新選組へ ~ 連理之枝 ~
「慶喜様と俺は出来てたんですか?」


夏弥の部屋に入るとすぐにそう聞かれた


「俺が一方的に好いていただけです」

「夏弥が貴方を好いていたとは、気づきませんでしたか?」

「え?」

「このお香は、恋心を叶える為に作った
俺は、クレハが好きでした
だから、クレハの思想を操った
なのに、俺が貴方に恋心を抱いてしまった
だから、気づいた…恋心がニセモノだと…
それでも、貴方から俺を引き離す為に
自分が死んで、俺が後を追うように仕向けた
家茂様と慶喜様が、俺を追いつめたように見せて…違いますか?
この傷…俺が自分で首を斬ろうとしたのでしょう?」



「それは…半年前の出来事です
東宮様の仰る通りです」


「クレハが亡くなるとき、誰かそばにいたか?」

「おそらく、近藤が…」

「近藤がクレハから、お香を貰い
伊東に渡ってしまったのか…
やはり、すべて…俺のせいだな…」


「東宮様…」


「今は、夏弥でいい」


「夏弥…」

もう…呼べないと思っていたその名を

口にした瞬間、涙が流れた


「慶喜様…貴方のその気持ちも
俺が作ったものでしょう…ごめんなさい」


「それでも…この涙は、夏弥を思っての
涙に変わりない!夏弥…うっうぅ」

情けないが…涙の止め方など知らぬ
好きでたまらないのだ

これが、作られたものであるはずがない
そうだ

「お香を嗅ぐ前から、夏弥を好いていた
初めて会った時からずっと…
夏弥が欲しかった…
お香を焚いた日は、星を見ながら夏弥は
俺の腕の中で先に眠った
夏弥は、何も言わなかった
ただ、寝ながら涙を流していた
この気持ちが作られたものであるはずが…
そんなこと!!絶対にない!!」



「ありがとうございます
俺は、幸せに生きていたのですね
貴方に愛され、新選組に愛され」




にこり





チュッ








初めて…夏弥からされた口づけだった






「夏弥のことは、忘れて下さい」







東宮様が部屋を出た











わかっている






もう…引き留めたりしないさ






自由になってくれ






幸せに暮らしてくれ






わかっているのに…




この手で、夏弥を抱きしめたかったと




悔やむ




夏弥を好いていることが



今になって、こんなに実感する




夏弥を諦める方法が… 俺にはわからない
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