雨恋~雨のちキミ~
「汚いなぁ」


髪の毛を固めるのを断念したらしいお兄ちゃんの頭頂部で、白い水玉模様が散らされた黒いボールのヘアゴムが揺れている


「ちょっ、勝手に人のゴム使わんとってよ」


「可愛いやろ」


「可愛くないわ」


唇を尖らせてそっぽを向いたけれど


うん…

いや………


18の男にあたしより似合ってるなんて、口が裂けても言いたくない


「あ。お母さんが、濡れたらアカンから替えの靴下持って行きって言ってた」


「………いちいちうるさいなぁ。そんなん濡れへんし」


その自信はどこから来るのか


何度か靴下が濡れて裸足で寒い思いをしたあたしは、お母さんに言われるまでもなく替えの靴下と濡れた靴下を入れるビニール袋を鞄に入れて持ち歩いている


でも、まー

帰る時また濡れた靴履くから、気持ち悪い思いしなアカンねんけど…

梅雨の間だけも、濡れた靴を乾燥させる何かが学校にあればいいのに


「行ってくるわ」


頬杖をついてボーッとしていると、リビングから飛び出していくお兄ちゃんの後ろ姿が見えた


あたしもそろそろ出なアカンな


深呼吸をし、ゆっくり立ち上がる

食器をシンクに置き、テレビを消してカーディガンを羽織った

来週から中間テストだから、今日から部活はない


また、先輩に会えるかな


薄暗い空を見上げ、先輩を想った
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