雨恋~雨のちキミ~
※※※



「恵さん!」


「千賀っ!」


「恵っ!」


皆の叫び声で、ふと我に返る


───っ!


すごい勢いで飛んでくるボールが視界に入り、慌てて右手で顔を覆った

聞いたことのない衝突音が体育館にこだまする


「───っ、たぁ…」


今が授業中ということが、完全に抜け落ちていた

指先がジンジンする

反射的に右手を出したものの差し出した手は開ききっておらず、折り曲げた指に直撃

視線を落とすと、親指以外のすべての指が痙攣していた


「いける?」


「すんごい音したけど…」


皆が駆け寄ってきて、心配そうにあたしを覗き込む


「うわっ、爪真っ白!」


「めっちゃ震えてるし!」


「保健室行ってきた方がええんちゃう?」


少し遅れて姿を覗かせた先生も、皆の言葉に何度も頷いている


「1人でいける?」


「保健室に居らんかっても、職員室覗いたら誰か居るし」


皆に背中を押され、震える指先を左手で包み体育館を後にした


「はぁ………」


情けない溜息が漏れる

授業中だったのに、完全に先輩のことしか頭になかった


お友達の『例の子』発言が、思ったよりもショックやったかも………


渡り廊下の窓から覗く景色は相変わらず灰色で

あたしの心の中をそのまま表しているかのようだった

廊下を渡り終えると、そのまま保健室を目指す
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