雨恋~雨のちキミ~
「鞄?」


何か付いているのかと、目の高さに持ち上げ上下左右を確認する


「ちゃうよ。その指で傘差しながら鞄持つん大変やろ。持ったるから貸して」


そこでようやく里やんの言葉の意味を理解


「えーよ、そんなん。大丈夫やって」


「………」


上靴を靴箱に直しながらそう答えたのに、里やんは無言であたしの手から鞄を引ったくった


「引ったくり」


「………」


「ドロボー」


「………」


「返してや」


「………履き替えたんやったら、行くで」


短く溜息を吐くと、包帯でグルグル巻きになったあたしの右手を包むように握り締め歩き出した


「えっ、ちょ………」


突然の出来事に、カアッと顔が熱くなる

男の人に手を握られるなんて、中学の体育大会のフォークダンス以来だ


それに…

いくら怪我をしているとはいえ、まさか里やんと手を繋ぐなんて


1人ドキドキしていると


「ん」


エントランスを出たところで手を離され、持っていた傘を奪われると、開いた状態で返された

自分の傘も開くと、何事もなかったように雨の中を歩き出す


めっちゃ普通やし

一瞬でもドキッとしたあたしがアホみたいやん


2人分の鞄を持ち、それが濡れないよう鞄側に傘を傾けて歩く里やんの後ろ姿を眺めながら歩く

やっぱり彼のことはよく分からない
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