雨恋~雨のちキミ~
「どうぞ」


「あ………お邪魔、します」


ドアを開けると、改まったように背筋を伸ばし頭を下げる先輩


こんな先輩、初めて見た

めっちゃ貴重かも


心の中で感涙しながらガッツポーズをするあたし

先輩は一瞬だけ部屋の中を見回し、ローテーブルの前に腰を下ろす


「あ、あのっ…あたし、飲み物持って来ますね」


「別にえーよ。そんなん気にせんとって」


そうは言われても、何も出さないわけにはいかない

ペコッとお辞儀をして部屋を出た


あ゛っ!

先輩に何飲むんか、聞くの忘れた!


コーヒーに紅茶、牛乳

今朝冷蔵庫を見たら、確かジュースも入っていたはず

だからといって今更『何飲みますか?』なんて戻るのは、計画性がないみたいだし


階段を下りながら思案する

リビングのドアを開けると、お兄ちゃんがこっちを覗きながらニヤニヤしていた


「なー。あいつ、彼氏?」


「ちっ、ちゃうわっ!」


彼氏なんて

憧れの先輩とそんな状況なら、喜んで報告するし


「あー、千賀子が好きなだけか」


片想いなのは充分承知していることとはいえ

そんな風に言われると、やっぱり切ない


「なあ、男の堕とし方教えたろか」


「え…」


そんなんあんの?


やかんをコンロに置きボタンを押しながら、思わず反応してしまう
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