雨恋~雨のちキミ~
「お待たせしました」


お盆の中身をこぼさないように慎重に

だけど先輩に向けて笑顔を忘れないように

いつもなら後ろ手で適当に閉めるドアも今日は静かに


細心の注意を払い、自分の部屋に入る


可愛く見られたい

女らしく見られたい


誰だって、好きな人には良く見られたいもの


「先輩、コーヒーと紅茶どっちがいいですか?」


コーヒーが飲めなかった場合を考え、コーヒーと紅茶を1つずつ用意してきた


「ありがとう。じゃあ、コーヒーもらっていい?」


「砂糖とミルクは…」


「あ、そのままで」


へー

先輩、ブラック飲めるんや

何か大人やな…


あたしの目を見て、優しい顔で微笑んでくれる

微笑んだ後そのままコーヒーに視線を落とした先輩の姿を見て、心の中でガッツポーズ


やっぱり、先輩はムッツリちゃうし


お兄ちゃんの言うことを鵜呑みにしたわけではないけれど

既製のえんじ色のリボンタイと、シャツの第一ボタンを外してから部屋に入ったあたし

チラ見でもするかと思ったけれど、先輩は目もくれなかった


「………」


「………」


「………」


だけど、コーヒーを渡してからは黙り込んでしまって

ほんの少しのミルクとたっぷりの砂糖を紅茶に入れ、スプーンで何度もかき回す


………気まずい
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