雨恋~雨のちキミ~
「あの時の強張った顔が忘れられへんくてさ」


「う………」


だってあの時は、変質者やったらどうしようって思ったんやもん


「あれから、風邪…引かんかった?」


「………はい」


どうしよう

めっちゃ嬉しい

先輩、ちゃんと覚えててくれたんや


優しい笑顔に涙腺が刺激され、不覚にも泣きそうになった


「コーヒー、ご馳走様。今日はそろそろ帰るわ」


「え…もう?」


時計に視線を移すと、6時前

いつの間に、こんな時間になっていたんだろう

元々雨が降っていて部屋が薄暗かったから、明かりを点けていた分時間の経過に鈍くなっていたのかもしれない


「そういえば、連絡先交換してないよな」


玄関で靴を履きながら、先輩があたしの方を振り返る


「あ、はい」


「会社一緒?」


同じ携帯会社だということも分かり、電話番号だけ教え合って今度こそ先輩は帰っていった


「愛しの彼は帰ったんか」


先輩を見送ってから玄関に入ると、リビングから半分だけ顔を出したお兄ちゃんがニヤリと笑う

いちいち相手するのも面倒で、聞こえないフリをしていると


「エロい声聞こえんかったけど、お色気作戦は失敗やったんか」


第一ボタンを開けっ放しにしていたことを思い出し、慌ててシャツの襟を掴んだ
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