2・5次元の彼女
ふと辺りを見回すと、岡崎と矢野恭子の姿がない。

「あの、2人は……?」
景斗が遠慮がちに口を開くと
「矢野さんたちは先に出て行きました。別の店で飲みなおすって」

えっ! と景斗は眉をゆがめる。

自分と綾を残して出て行ってしまったのだろうか。
……まあ、確かに寝ていた自分も悪いのだか。
それにしても、自分はともかくとして彼女まで置き去りにするなんて、酷すぎやしないだろうか。
岡崎は一体何を考えているんだ。

文句を言いたそうな表情を感じ取ったのだろうか、綾が弱々しく呟いた。
「あの、怒らないであげてください。
私が勧めたんです。矢野さんは、きっと岡崎さんと2人きりになりたかっただろうから」

そういうことか、と納得しながらも、せめて起こしてくれればいいのに、と岡崎を呪った。
「すみません。僕が寝てしまったばっかりに」
「いえ、いいんです、こちらこそ、疲れているところを付き合わせてしまってすみません」
「僕、どれくらい寝てました?」
「えと、1時間くらいでしょうか」
綾が線の細い腕時計を覗く。

景斗は額に手を当てた。
1時間も待たせてしまったのかと、申し訳なくうな垂れて――正面には綾の顔があるので、斜め横を向いて――うつむいた。
「本当に、すみません。こんなところで長時間待たせてしまって」
そんな景斗の姿を見て、綾はぶんぶんと首を振る。
「いえ、全然。……私は一緒に居たかったので」
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