2・5次元の彼女
顔を近づけようとして、寸でのところで理性が脳内で囁いた。

だめだ、気持ちが曖昧なままそういうことをするのは。
少なくとも、こんなときにユウさんの顔が浮かんでしまううちは、他の人を見る権利はない。

景斗は綾の両肩支えると、そっと自分の元から引き離した。
「今日はありがとうございました。
三浦さんとお話できて、楽しかったです」

拒否されたことを悟った綾は、一瞬酷く傷ついたような表情をしたが、すぐに無理やり笑顔を作った。
「こちらこそ、楽しかったです」

明るい言葉とは裏腹に、眉が悲しげに下がっていた。
綾は嘘をつくのが下手なようだ。
彼女の考えていることが分かる分、景斗は余計いたたまれない気持ちになった。


店を出た2人は、ネオンに彩られた大通りを駅に向かって歩いた。
金曜の夜だけあって、酔っ払いや客引きが多い。
ときたま、感じの悪いサラリーマンが背後から容赦ないスピードで追い越そうとぶつかってくる。
景斗は、小柄な綾が人混みに潰されないよう、背中に手を回して庇いながら歩いた。

綾は自然に景斗へ寄り添う。
後ろから見れば、完全に恋人同士に見えるだろう。
景斗は慣れない距離感に緊張を隠しながら、ゆっくりと駅までの道のりを歩いた。
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