２・５次元の彼女

「はいはーい！　イリーナは俺だよー！」

イリーナが前に進み出て、景斗の手を握った。
現実を突きつけられて、身を強張らせる景斗。

ああっ。景斗、気を確かに！

あまりのショックに景斗は思考を失くしているようだ。
頭の中が真っ白になっているのが、はたから見てもよくわかる。
握った手を勢い良く振り回すイリーナに、景斗は呆けた顔でなすがままにされていた。

彼には可哀想だけれど、現実を受け入れてもらうしかない。
そして、イリーナのことがあまりにショック過ぎて、目の前にいるもうひとりの女性の正体――私がユウであることまでは、気が回らないようだった。


全員が集まったところで、私たちは近くにあった居酒屋に入り、お互いの自己紹介をかねて酒を交わした。

イリーナはビール、酎ハイ、日本酒とほいほい酒のグラスを開かしていく。
若い見た目に反してなかなかの酒豪のようだ。
ワインに口をつけたとき、彼はしみじみと呟いた。
「まさかユウさんが女の子だったとはねー」

その言葉を受けてHARUがハイボール片手にイリーナの肩を叩く。
「それを言うなら、イリーナ、お前も男だったとはな」

イリーナは腕を組んで、むーんと唸りを上げた。
「俺的には、男４人が集まるむさ苦しい会を想像してたんだけど」
「悪かったな、ユウ。こんなむさ苦しい野郎３人で囲んでしまって」
気をつかってくれたHARUに「ううん、全然」私は笑顔で返す。
「ひどいなHARUさん。俺まだ大学生だよ？　むさ苦しくなんかないよ」
イリーナが非難の声を上げた。

景斗は心なしか言葉数少なく、ただ酒だけはイリーナにつられてぐいぐいと勢いよく飲んでいた。
「そんなに飲んで大丈夫？」
私が景斗を覗き込むと
「うん、ごめん」
そう謝って、私にしか聞こえない声で呟いた。
「飲まないとやってられなくて……」

ああ……そうだよねぇ……
大好きだったイリーナが男だったんだもんねぇ……
ヤケになる気持ちはよく分かる。