2・5次元の彼女
「私、景斗のことなんて全然言ってないけど!」
まるで私が景斗のこと大好きみたいな言い方しないでよ!
ついついむきになって声が大きくなってしまった私に
「夕莉の考えてることは、だいたい分かるよ」
HARUはそんなことを言って軽くあしらった。

「それに――」
私は再び込み上げてきた苛立ちを押し殺しながら言った。
「――景斗には彼女がいるし」

「へぇ!」
HARUは驚きながら、そしてどこか少し嬉しそうに目を見開いて、ソファの背もたれに寄りかかった。

「それは意外だったな」
「……そうかな」
私が興味なさそうに答えると、HARUは少し意地悪な目になった。
「ひょっとして、だから今日ここに来たの?」
「……どういう意味?」
どうしてこうHARUってば鋭いのだろう。私は動じない振りをする。

「悲しむなよ。俺がいるじゃん」
「悲しくなんてないよ」
「夕莉は素直だけど、ときどきすごく意地っぱりだ」
HARUが私の頭を抱いて自分の肩へ寄せた。
「俺が傍にいてやるから」


その大きい手のひらも、筋肉質な腕も肩も、自信満々なその口調も、どれもこれもが力強くて。
つい身を委ねてしまいたくなる。
このままで居たいと願ってしまう。
そんなこと、叶わないと分かっているのに。

彼がいつかここを出て、自分の居場所に戻ってしまう、そのときまで
せめて一緒に居てもいいだろうかなんて
甘くて稚拙な感情に流されてしまいそうになる。

一度目を閉じてしまったら、もう全てどうでもいいような気がして
やっぱり今日も彼の腕の中で眠ってしまうんだなあなんて
懲りない自分に嫌気が差しながらも、今は十分に幸せを感じられた。
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