2・5次元の彼女
「最初はさ、暇なときにでも手伝ってやるかぐらいのつもりだったんだけど」
「確かに、出会った頃は、それほどログイン率高くなかったね」
「そのあとすぐに結婚して」
「普通、そこで卒業しようとか思うもんじゃないの?」
「俺も、そのつもりだったんだけどさ」

HARUはなんだか悲しげに笑いながらこちらに向き直って、手持ち無沙汰に私の髪をいじった。

「ずっと彼女と同棲してたから、結婚したって今までと変わらないって思ってたんだけどさ。
いざ結婚ってなったら、急に全てが窮屈に感じて。
……なんだか、自分の未来の可能性が全て潰されたような気がして。
俺、今までずっと自由気ままにやってきてたから、向いてなかったんだろうな。そういう、型にはめられるのは。
別の世界を持ちたいと思った。縛られた現実だけじゃなくて、別の自分で居られる世界を」

「それがゲーム?」
「そう。お前たちの前にいる俺だよ」

HARUが私の頭にぽふんと手を置いた。
私の顔はふんわりとした枕に緩やかにうずもれる。

「……ちょっと意外」
「何が?」
「……HARUは、いつも完璧だったから、現実に不満なんてないのかと思ってた」
「そんな訳ないだろ」

HARUが諭すように言う。
「お前らが考えてるより、俺はずっと不完全で、ダメなやつだよ。
ゲームの中にいると、見えづらいのかも知れないけれど」

自嘲しながらなんだか少し情けない顔をしたHARUは、今まで私の瞳が写してきた完璧な彼よりも、ずっと現実味を帯びていた。

「誰だってそうだ。完璧な奴なんかいない。みんな不完全で、どこか壊れているんだよ」
ため息交じりに漏れたのは、ずっと胸の奥にしまい込んでいた弱音だろうか。
きっとこれが、彼の本音。
いつも私の前で完璧に魅せていた彼は、本当はとても脆くて、ひょっとしたら私以上に現実から逃げ出したかったのかもしれない。
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