２・５次元の彼女

「……俺のこと、嫌いになった？」
無言のままじっと耳を傾けていた私はふと問いかけられて我に返った。

「え……どうして？」
戸惑いながら彼の方に目をやると、少し不安そうな瞳で笑う彼。
「夕莉は完璧な俺に憧れていたんだろう？　幻滅した？」
「……」

私は口ごもった。
確かに、私の考えていたHARUは、完璧で、理想通りで、憧れで。
でもだからって幻滅したかというと、そうではなくて。
逆に不完全な彼だからこそ、愛おしく、傍に居たいと思ってしまう。

そんな瞳を私に向けるなんて、反則だと思う。
大好き。愛してる。傍にいて。
そんな言葉が、唇から零れ落ちそうになる。

私が枕に顔を埋めて自制心と戦っていると、少し遠くのデスクの上で彼の携帯電話が振動する音が聞こえた。

「……出ないの？」
「……いい」
「どうして？」
「……今は夕莉との時間だから」
「構わないよ。出て」
「……」

HARUは渋々ベッドから起き上がり、床の上に脱ぎ捨てられていたジーンズに手を伸ばした。
下だけ履いて上半身裸のままデスクへ向かい、私に背中を向けて携帯電話を確認する。

少しうつむき加減で固まる彼の後ろ姿。どんなメールだったのか、どんな表情をしているのか、私の位置からではうかがい知れない。

やがて、コトリと小さな音を立ててデスクへ携帯を置いた彼は、ベッドへと戻り、私の羽織る肌掛けの中に滑り込んできた。
ざらりとした冷たいジーンズの感触が私の太ももに触れ、対照的に、私を抱きしめる腕と胸からは素肌の温かさが伝わってくる。

あまりに無言のまま抱きしめられて、何かあったのではないかと勘ぐってしまう。